How to Approach

1. 解くべき問い

現在、日本が抱える大きな課題は三つあります。

最初の二つが過疎化・少子高齢化。この二つの根本要因は、首都圏に職を求めて人が移動する社会増加だと言われています。したがって、人の流れの逆潮流を作っていくことが、この二つの課題の一つの解決策となります。 

最後の一つが巨大災害。

2011年に発生した東北沖大震災加え、今後も南海トラフ沖地震や富士山噴火などが今後発生するだろうと予測されています。そして、そのいずれもが首都圏を襲う可能性があり、前述した過疎化、少子高齢化と同じく、人の流れの逆潮流を作っていくことが肝要です。


つまり、首都圏一極集中型の社会から地方分散化型の社会を実現することが、日本の抱える三つの課題に対する解くべき問いとなると考えます。

2. 地方分散化を実現するために何が必要か

国土の40%のイメージ

これだけの面積の土地に日本の総人口の
5%に相当する約659万人の人々しか住んでいません。

IoTの進展をパンデミックが後押しする格好となり、これまでの住職近接という職場を中心とした定住型の暮らしから、より住みやすい地域に移動する移住型の暮らしに変わりつつあり、地方分散化に向けての素地が整いつつあるといえます。

 

その一方で、移住者を待ち受ける地方のQoLはどうでしょうか。

日本の国土の約40%に国民のたった5%しか住んでいないと言われています。そこから見える地方での暮らしは、QoLを上げるためには必ず何かしらの移動手段を確保する必要があるということ。

 

しかしながら、地方の移動サービスの実態は、過疎化による利用者の減少、高齢化に伴う担い手不足、設備の老朽化などにより、減便や配線が後を絶たないのが実態。さらには、高齢者の免許返納問題、原油価格の高騰や所得の低下に伴う自家用車の放出など、移動弱者への厳しさは増すばかりです。

 

加えて、これからの社会を担うZ世代以降の人々は、モノ思考よりもコト思考だと言われており、自家用車の所有がエントリーチケットとなる地域での暮らしを避け、スマホと移動サービスを駆使して行きたい場所に行ける地域に移住する傾向にあります。

 

したがって、地方分散化を実現するためには、地方でも成立する移動サービスを実現していくことが肝要です。

3. 地方の移動サービスの実態

大都市の周辺にある郊外都市と言われているような地域では、タクシーは一日平均約240kmほど走ると言われています。そのうち、実際にお客様を乗せている距離(=実車率)は43%程度(約103km)で、それ以外の距離(=空車率)は回送していると言われています。

 

 

一方、今のタクシー事業の収益化構造を前提とした場合の損益分岐は、実車率60%(約144km)と言われており、実態(43%)との乖離である17%を生んでいる要因は次の三つであると言われています。

 

  • 行った先営業ができないという地域性(戻りは必ず回送状態になる)
  • 労働基準法などの社会システム上の制約
  • ガソリンスタンドや充電インフラなどの社会インフラ上の制約

つまり、タクシー事業者単独では解決できない状態となっています。

タクシー実車率・空車率のイメージ

郊外都市では一台につき一日240km程度走行すると言われており、
実車率の損益目標に対して、実態は大きく下回っています。

4. 移動サービスのX MaaS化

生活支出の内訳

移動サービスの収益化に向けては、4兆円の中で考えるのではなく、
生活サービスと連携させることを考えることが肝要です。

移動サービス単独での収益化は困難であることに加え、前述したIoTの進展とパンデミックの影響により、私たちの普段の生活ではそもそも外出する頻度自体が減っているという実態があります。

 

総務省が調査している国内の二人以上の全世帯の生活品目支出のうち、移動サービスに係る費用は、2018年は約7兆円であったのに対し、2021年は約4兆円まで下がっています。一説にはパンデミック後もこの移動サービス費用は元の状態に戻らないとも言われており、少子高齢化による今後の人口減少もその要因の一つです。

 

見方を変えると、移動サービス事業というのは、前述の約4兆円という枠の中で事業を成立させる必要があるため、新たな移動サービス事業が参入してしまうと、必ずと言っていいほど何かしらのサイドエフェクトが発生してしまいます。

 

したがって、地方で移動サービスを考える場合には、まずは地場の移動サービス事業の立て直しを前提に考えていく必要がありますが、前章で述べた通り、移動サービス事業単独での収益化は困難であるため、最終的には社会システムやインフラを再編することを目標に、移動以外の収益源の利活用を踏まえた自立採算型の取り組みにしていくことが肝要です。

 

そのための方策の一つとして、地域や生活サービスと移動サービスを連携させるX MaaSという考え方があります。X MaaSのXとは、例えば買い物やヘルスケアのことで、これらの生活品目支出は移動サービスと比較すると圧倒的に大きいため、X MaaS化することで移動サービス費用が生活サービス費用に包含されることになり、移動サービスの収益化に向けて一定の目処が立つ可能性が高まります。

5. 事業と政策の協調がKSF

X MaaS化に向けた取り組みというのは、国内外ともに多数の実証事例があります。しかしながら、事業が主体的に取り組んだ事例では政策の取り込みがうまくいかず、逆に政策が主体的に取り組んだ事例では事業者の取り込みがうまくいかず、結果的に地域や期間・対象者などに制限が生まれ、継続的なサービスになり難いという問題があります。

 

一方で、前章で述べてきたように地場の移動サービスの収益化を実現しうようとすると、地域や生活サービスとの連携が不可欠であり、そのためには事業と政策が目標を共有しながら協調していくことが肝要です。

 

最近では、事業主体型、政策主体型のX MaaSに加え、事業と政策を取り持つオーケストレーターを迎えたハイブリッド型が進展してきており、事業と政策のPro/Consを踏まえながら、落とし所や進め方の手順をオーケストレートして進めていくため、サイドエフェクトが少なく、継続的な活動になりやすいと言われています。

MaaSレベルから見た事業と政策の非協調のイメージ

X MaaSの実現に向けては、事業と政策の協調が必須であることがわかります。

6. 地域住民の行動の変容を促す

これまで移動サービスの実装支援をしてきた地域の住民の方々に「移動サービスは必要ですか?」と問うと、ほぼ全員が「Yes」と答えられます。しかし、地域が求める通りに移動サービスを設計し実装したとしても、収益化できるほど使ってもらえるかというと必ずしもそうではありません。

毎日移動する人もいれば、たまにしか移動しない人もいる。移動サービスを活用する人もいれば、自分で移動手段を確保する人もいる。移動する目的も、移動サービスを使う理由も千差万別です。

ある地域では、移動サービスが必要と言われていた経路に実際に観測ポイントを設置し、人の流れの総量を調査してみたところ、地域の全住民のたった3%程度しかその経路を使って歩いている人(=ポテンシャルユーザー)がいなかったということもありました。

 

つまり、移動サービスを設計する前に、地域住民の行動やその目的を把握する必要があり、その上で真に求められている移動サービスを把握する必要があります。

 

しかし、それだけでは十分ではありません。

過疎化の進んでいる地域では、そもそも外出する目的となりうるコンテンツが希薄化しており、そのために外出を控える傾向が生まれ、移動サービスの利用頻度も減る、振り出しに戻って外出目的となるコンテンツが減る、という負のループに陥っている場合がほとんどなのです。

 

したがって、移動サービスを実装する前に、住民の行動の変容を促すコンテンツを抽出し、日々のUXに落とし込んでいくことが必要です。また、コンテンツとは、生活サービスのことであったり、住民同士の関係性であったり、地域のイベントであったり、色々です。それらは地域のフィールド調査であったり、地域住民や地域の事業者とのディープインタビューやアンケートなどで抽出していくことが必要です。

 

X MaaS化が有効なのは、こうした生活サービスなどの様々なコンテンツと移動サービスを連携させるためであり、前述の負のループを断ち切るには有効なソリューションだと考えられています。

7. NLDだからできること

これまで日本全国の複数の地方公共団体とお話やご支援をさせていただきました。

その経験の中で共通して言えることは、「使える予算に相当な制約がある。」ということ。加えて、過疎化・少子高齢化の影響でサービス利用者の数が減っており、大手の事業者を呼んだとしても、ビジネスとしての成立性が極めて低いということ。 中には、事業者を誘致できたものの、PoC終了後に引き上げられてしまいサービスが定着しない、といったような声も少なくありません。

そして、なす術なく手を拱いている間にさらに過疎化・少子高齢化が進んでしまうという悪循環。これをどうにかして断ち切っていかないと、いずれは町が死んでしまいます。

 

しかし、サービスを実装するために大きな予算は必要でしょうか。あるいは、地域の特性を踏まえずに無理なビジネスの成立性を追い求めていませんでしょうか。仮に大きな予算をかけて移動サービスを設計し実装したとして、果たして本当に地域のQoLは上がるのでしょうか。

 

地方だからこそ、点ではなく、面で捉えることができる。

地域の特性を活かし、移動に閉じない様々なサービスを連携させる地域サービスの提供ができるのだと思います。

 

NLDでは、豊富な実績と知見、事業者とのリレーション、そして、徹底したフィールド調査とナレッジを活かして、地方公共団体に適した持続可能な地域デザインのあり方をご提案します。

ぜひ一度ご相談ください。

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